ROADECT
GRスープラ 2026年3月生産終了。A90型の全改良と7年間の軌跡
モデル4,100字

GRスープラ 2026年3月生産終了。A90型の全改良と7年間の軌跡

2026年3月で生産を終えるGRスープラA90型。340PSで始まり441PSのFinal Editionで幕を閉じる7年間の改良履歴、BMW協業の背景、SUPER GTでの戦績を振り返る。

2026年3月、最後のラインオフ

2026年3月をもって、GRスープラの生産ラインが止まる。

オーストリア・グラーツにあるマグナ・シュタイヤーの工場で、兄弟車であるBMW Z4と同じラインから送り出されてきたA90型スープラ。2019年5月17日の発売から約7年、累計約23,000台がこの工場から世界へ旅立った。

17年の沈黙を経て復活し、毎年のように手が加えられ、最後にはサーキット走行を前提とした1,500万円の限定モデルまで生み出した。A90型が駆け抜けた7年間を、改めて振り返る。

GRスープラ A90 Final Edition
出典: TOYOTA GAZOO Racing

なぜBMWだったのか——協業の決断

2012年、トヨタとBMWは広範な技術提携を発表した。燃料電池、軽量化技術、電動化に加え、その中にスポーツカーの共同開発が含まれていた。

開発責任者に選ばれたのは多田哲哉氏。86でスバルとの共同開発を率いた経験を買われての起用だった。多田氏はのちにこう語っている。

こんな古典的なスポーツカーはこれが最後でしょう。今どき異業種のコラボレーションって、どの分野でも重要。自前主義にこだわるのは、自動車業界くらい

設計実務はBMW側が担当し、プラットフォームとパワートレインを共有する。ただし外観デザインと走りのチューニングは、トヨタとBMWがそれぞれ独自に仕上げた。同じ素材から、オープンスポーツのZ4とクローズドクーペのスープラという、まったく性格の異なる2台が生まれた構図だ。

交渉は平坦ではなかった。BMW側からは「いまどきリアルスポーツなんて作ってどうするんだ」という声もあったという。それでも多田氏はピュアスポーツの路線を譲らなかった。「主張ばかりでは話が前に進まないし、譲ってばかりでは自分たちの思いが製品にならない」と、異文化の間で粘り強く開発を進めた。

2019年——17年ぶりの復活

2019年5月17日、GRスープラは3つのグレードで発売された。

グレードエンジン最高出力価格
RZ3.0L 直列6気筒ターボ340PS690万円
SZ-R2.0L 直列4気筒ターボ258PS590万円
SZ2.0L 直列4気筒ターボ197PS490万円

全車8速AT、駆動方式はFR。直列6気筒とFRの組み合わせという、歴代スープラの核となる要素は守られた。

エンジンはBMW製のB58型直列6気筒ターボとB48型直列4気筒ターボ。発表直後から「中身がBMW」「Z4のバッジ替えではないか」という声が上がったのも事実だ。だがこの議論は、年次改良を重ねるたびに薄れていくことになる。

GRスープラ 2019年発売時
出典: TOYOTA GAZOO Racing

進化の記録——毎年磨かれた走り

A90型スープラの特徴は、毎年のように手が入り、確実に走りが磨かれていったことにある。

2020年: 出力向上とボディ強化

発売翌年の2020年4月、最初の一部改良が発表された。RZの3.0L直列6気筒ターボは、エキゾーストマニホールドの構造変更と新ピストンの採用により、340PSから387PSへと47PS引き上げられた。フロントにブレースが追加されてボディ剛性が強化され、サスペンションも再チューニングされた。

2022年: 待望のMT追加

2022年4月、A90スープラの歴史における大きな転換点が訪れた。RZに6速マニュアルトランスミッションが新設定されたのだ。

新開発の6速MTには、シフト操作時にコンピューターが最適なエンジン回転数に合わせるiMTを採用。スムーズなスポーツ走行を支援する自動ブリッピング機能を備えた。

足回りもAVSの制御見直しとスタビライザーブッシュの特性変更で、操舵初期の応答性が向上。新設計の19インチ鍛造アルミホイールは1本あたり1.2kgの軽量化を実現した。

MT追加は、スープラがBMWの部品で組まれたクルマではなく、トヨタが走りに本気で向き合い続けているクルマであることの証明だった。50台限定の特別仕様車「RZ Matte White Edition」も、6MT専用モデルとして設定された。

2025年3月: 最終改良とA90 Final Edition

2025年3月21日、最後の一部改良モデルが発売された。RZは387PSを維持しつつ、brembo製18インチブレーキへの大径化、リヤ床下ブレース構造の強化、電子制御ダンパーの特性見直しが施された。価格は800万円。初代RZの690万円から110万円の上昇は、7年間で積み重ねた装備の厚みを物語る。

GRスープラ 2025年一部改良モデル
出典: TOYOTA GAZOO Racing

A90 Final Edition——量産の枠を外した集大成

そして同日、150台限定のA90 Final Editionの抽選受付が始まった。価格は1,500万円、トランスミッションは6MTのみ。

3.0L直列6気筒ターボは吸気経路の見直しと低背圧触媒の採用で441PSまで引き上げられた。排気系にはアクラポヴィッチ製チタンマフラーを装着する。通常のRZが387PSだから、54PSの上乗せだ。最大トルクも571Nm(58.2kgf・m)に達する。

足回りにはレーシングカーに多く採用されるKW製の減衰力調整式サスペンションを投入。伸び側16段、縮み側12段の調整幅を持つ。タイヤは通常仕様から10mm拡幅されたミシュラン・パイロットスポーツCUP 2。ブレーキはbrembo製19インチキャリパーと395mm径のフローティングドリルドディスクだ。

車内にはRECARO製カーボンフルバケットシートが収まる。カーボンフロントスポイラー、カーボンフロントカナード、スワンネック構造のカーボンリヤウイング。量産車の制約を外し、開発陣が理想を詰め込んだ1台になった。

GRスープラ A90 Final Edition 詳細
出典: TOYOTA GAZOO Racing

レースフィールドでの存在感

A90スープラは、市販車としてだけでなくレーシングカーとしても確かな実績を残した。

SUPER GT GT500クラスには2020年シーズンから参戦。開幕戦の富士スピードウェイでは、トップ5を独占するデビューを飾った。以降、2021年、2023年、2024年とシリーズチャンピオンを獲得。TGR TEAM au TOM'Sの坪井翔選手は、2021年から2024年までの4シーズンで3度のドライバーズタイトルに輝いている。

北米ではNASCAR Xfinityシリーズに2019年から参戦した。カムリの後継としてデビューし、第2戦アトランタでクリストファー・ベル選手がいきなり初優勝。通算69勝以上を記録し、チャンピオンシップも2回獲得している。

GR Supra GT4として世界各国のGTレースにも展開され、プライベーターにとって手の届くGTレースカーとしての役割も果たした。

GR Supra レーシングカー
出典: TOYOTA GAZOO Racing

生産終了、そしてこの先へ

A90型スープラが7年で幕を閉じる直接の理由は、マグナ・シュタイヤーでの生産契約がBMW Z4と連動していることにある。Z4も2026年3月に生産を終了し、後継モデルは発表されていない。

累計約23,000台という数字は、大量生産車と比べれば控えめだ。だが1台1台がグラーツの工場で丁寧に組み上げられ、毎年確実に進化を重ねた。340PSで始まり、441PSの Final Edition で締めくくる。その軌跡は、7年間にわたってスポーツカーを磨き続けた開発陣の執念そのものだ。

後継モデルの詳細はまだ発表されていない。次のスープラがどんな姿で現れるのか、それはまだ誰にもわからない。

ただ一つ確かなのは、A90型は短い生涯の中で進化を止めなかった真剣なスポーツカーだったということだ。3月が終わり、生産ラインが止まるその日、A90型スープラの物語は完結する。だがこのクルマを愛した人々の記憶は消えない。世界中のサーキットを駆けたその走りは、これからも残り続ける。

GRスープラの生産を担ったマグナ・シュタイヤーは、オーストリア・グラーツに本拠を置く世界最大級の受託生産メーカーだ。メルセデス・ベンツGクラスやジャガーのI-PACEなど、ブランドの垣根を越えた多様な車種を同じ工場で生産しており、GRスープラとBMW Z4が同一ラインで組み立てられたのもこの工場の柔軟性があってこそだった。