日産AUTECHとは何か——NISMOとの違い・歴史・全車種を解説
日産車のグレードに並ぶ「AUTECH」とは何か。NISMOとの違い、オーテックジャパンの歴史、現行全8車種の特徴まで。スポーツではなく上質さと個性を軸にした、もうひとつのクルマの楽しみ方を解説する。
日産のカタログを開くと、セレナにもエクストレイルにもオーラにも「AUTECH」の文字が並んでいる。NISMOとは何が違うのか。通常グレードと何が違うのか。その答えは、湘南・茅ヶ崎に生まれたひとつの会社のクルマづくりの思想にある。
スカイラインの開発者が興した会社
AUTECHの源流をたどるには、1986年まで遡る必要がある。
この年、神奈川県茅ヶ崎市に株式会社オーテックジャパンが設立された。初代社長は櫻井眞一郎氏。プリンス自動車工業時代に初代スカイラインの開発に携わり、2代目S50型から7代目R31型の発売前年まで開発責任者を務めた、日産を代表するエンジニアだ。
オーテックジャパンは日産グループ内に散在していた特装車の機能と人材を集結させた、いわば日産直系のカロッツェリアとして生まれた。カロッツェリアとは、イタリアに起源を持つ車体架装を手がける工房のことだ。量産ラインでは実現しにくい仕様を、少量生産の手法で仕立てる。それがオーテックの出発点だった。

名車を生んだクラフトマンシップ
設立翌年の1987年、オーテックはセドリック/グロリア ロイヤルリムジンを世に送り出した。1988年には電動開閉式幌を備えたシルビア コンバーチブルと、エンジンから足回りまで本格的にチューニングしたスカイラインR31 GTSオーテックバージョンを発売。さらに1989年にはイタリアの名門カロッツェリア、ザガートとの共同開発で「オーテック ザガート ステルビオ」を生み出した。
リムジン、オープンカー、チューニングカー、そしてイタリアンデザインの限定車。わずか数年で展開した守備範囲の広さが、この会社の性格をよく表している。量産車の枠に収まらない「もうひとつの個性」を、技術と仕立てで形にする集団だ。
中でも語り継がれるのが、1997年に登場したステージア オーテックバージョン 260RSだろう。スカイラインGT-RのBCNR33型と同じRB26DETTエンジンを、ツーリングワゴンのボディに移植した1台だ。車体やシャシーにも大幅な補強を施し、日産史上最速のツーリングワゴンと呼ばれた。「速いワゴンが欲しい」という要望に、エンジニアの意地で応えたモデルだった。
.jpg)
一方で、オーテックのクラフトマンシップはスポーツだけに向いていたわけではない。1994年には日本初の全自動式リフターを採用した福祉車両キャラバン/ホーミー チェアキャブを、1995年には日本初の助手席回転シート車となるマーチ アンシャンテを開発している。人に寄り添うクルマづくりの知見は、現在のAUTECHが持つ上質さの土台でもある。
日産モータースポーツ&カスタマイズへ
2022年4月、オーテックジャパンはニッサン・モータースポーツ・インターナショナルと統合し、日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社として新たなスタートを切った。モータースポーツ事業部とカスタマイズ事業部の2本柱で構成される組織だ。
AUTECHブランドはカスタマイズ事業部が担い、35年以上にわたって蓄積してきたクラフトマンシップを継承している。NISMOがモータースポーツの領域を受け持ち、AUTECHがカスタマイズの領域を受け持つ。2つのブランドが1つの会社の中で共存する体制が、ここに完成した。
プレミアムスポーティという思想
AUTECHのブランドコンセプトは「プレミアムスポーティ」だ。スポーティでありながら、高級感のあるスタイリングを追求する。その原点にあるのは、創業地である湘南・茅ヶ崎の風景だ。
AUTECHの車両に共通するデザイン要素を見ていこう。
フロントフェイスを特徴づけるのは、水面のきらめきをモチーフにしたドットパターングリルだ。ドットの一粒一粒がどの角度から見ても美しく輝くよう、面の形状が緻密に作り込まれている。その脇には、海を進むボートの後方に生じる航跡波をモチーフにしたシグネチャーLEDが配される。湘南の海と空を想起させるブルーの発光色にこだわった、AUTECH専用の意匠だ。
ボディ下部にはメタル調フィニッシュのプロテクターが回り、専用デザインのアルミホイールが足元を引き締める。インテリアに目を移すと、耐久性と耐水性に優れたレザレット素材のシートにブルーステッチが走り、紫檀柄のダークウッド調フィニッシャーがインストパネルとコンソールを飾る。シートにはAUTECHのロゴ刺繍が入る。

車種ごとに異なるブルー
AUTECHのアイコニックカラーはブルーだ。ただし、全車種で同じ色を使っているわけではない。車種ごとにスタイリングに似合うブルーを個別に選定しており、デザイナーが実際に海へカラーパネルを持ち出し、茅ヶ崎の海の青と見比べて検証するプロセスを経ている。
セレナやエクストレイルには「ディープオーシャンブルー」、オーラには「オーロラフレアブルーパール」、キックスには「ダークブルー」。いずれも2トーンカラーとして設定され、ルーフをブラックに塗り分けることでAUTECHらしい存在感を際立たせる。ブルーという色はひとつでも、その表情は1台ごとに異なるのだ。
NISMOとの違いを整理する
日産には「NISMO」というもうひとつのカスタマイズブランドがある。両者は同じ会社に属しながら、方向性が明確に異なる。
| 項目 | NISMO | AUTECH |
|---|---|---|
| コンセプト | ピュアスポーツ | プレミアムスポーティ |
| ルーツ | 1936年からの日産レース活動 | 1986年からのカスタムカー・特装車製造 |
| デザインの方向性 | 力強さを強調するエアロパーツ | 上質さと洗練のドットパターングリル |
| アクセントカラー | 赤 | 青 |
| チューニングの方向性 | エンジン/モーター出力向上、専用ECU | 乗り心地と質感の向上 |
| インテリア | レカロシート等のスポーツ系装備 | レザレット、ブルーステッチ、ダークウッド調 |
NISMOがサーキットを出自とするなら、AUTECHは工房を出自とする。赤い差し色が速さを語り、青い差し色が上質さを語る。どちらが上ということではない。クルマとの付き合い方に2つの軸を用意しているのが、日産のカスタマイズブランドの構造だ。
2026年のAUTECHラインナップ
2026年3月時点で、AUTECHグレードは8車種に設定されている。
| 車種 | グレード | 価格(税込) |
|---|---|---|
| セレナ | AUTECH / SPORTS SPEC | 370.4万円〜 |
| エクストレイル | AUTECH / SPORTS SPEC | 514.1万円〜 |
| オーラ | AUTECH / SPORTS SPEC | 310.3万円〜 |
| ノート | AUTECH CROSSOVER / LINE | 243.9万円〜 |
| キックス | AUTECH | 343.8万円〜 |
| リーフ | AUTECH | 616.2万円〜 |
| ルークス | AUTECH LINE | 201.9万円〜 |
| キャラバン | AUTECH | 390.4万円〜 |
ここで注目したいのは、AUTECHの中にも階層があることだ。
「AUTECH」はフルスペックのプレミアムスポーティ仕様で、専用のエクステリア、インテリア、シグネチャーLEDまで一式が揃う。「AUTECH SPORTS SPEC」はそこに足回りやボディ剛性の専用チューニングを加え、走行性能まで踏み込んだ上位グレードだ。セレナ、エクストレイル、オーラの3車種に用意されている。
一方、「AUTECH LINE」はAUTECHのデザインエッセンスをより手頃な価格帯で提供するシリーズだ。セレナ、キャラバン、ルークス、ノートに設定されており、約200万円台からAUTECHの世界観に触れることができる。

2025年10月には、フルモデルチェンジした新型リーフをベースとするリーフAUTECHが発表された。「Tailored Premium Sporty EV」をコンセプトに掲げ、19インチ専用ホイールや次世代素材のテーラーフィットシートを採用。2026年1月の東京国際カスタムカーコンテストでは優秀賞を受賞している。EV時代のAUTECHがどのような姿を見せるか。リーフAUTECHはそのひとつの回答だ。
量産車に宿る個性
AUTECHは、量産車を否定しない。量産車をベースにしながら、デザイン、素材、仕立てという手法で「もうひとつの個性」を加える。それはアフターマーケットのカスタムとは異なり、工場出荷時点で完成されたファクトリーカスタムだ。
日産のディーラーで新車として購入でき、メーカー保証も受けられる。それでいて、通常グレードにはない専用の表情と質感を持つ。AUTECHが提案しているのは、クルマの楽しみ方における選択肢の広がりだ。
スカイラインの開発者が興した会社の思想は、40年近い時を経て、軽自動車からEVまで日産の幅広い車種に展開されている。カタログでAUTECHの文字を見かけたら、その背景にある湘南の工房の物語を思い出してほしい。
オーテックジャパンの茅ヶ崎本社は、創業翌年の1987年に竣工した。その社屋は直列6気筒エンジンをイメージした外観を持つ。スカイラインのエンジンに人生を捧げた初代社長、櫻井眞一郎氏のこだわりが建物にまで及んでいた。


