日産ムラーノ 日本市場に復活——米国生産・新認定制度で2027年発売へ
日産は米国テネシー州で生産するSUV「ムラーノ」を2027年初頭に日本で発売すると発表した。国交省が新設した米国製乗用車の認定制度を活用する形での導入であり、約12年ぶりの日本復帰となる。2.0L VCターボエンジン搭載の4代目Z53型だ。
日産自動車は2026年3月17日、米国テネシー州で生産するSUV「ムラーノ」を日本市場に導入すると発表した。販売開始は2027年初頭を予定している。国土交通省が2026年2月に創設した「米国製乗用車の認定制度」を活用する形での導入であり、ムラーノにとっては約12年ぶりの日本復帰となる。

何が発表されたか
日産の社長イヴァン エスピノーサ氏は、プレスリリースの中で次のように述べている。
「『ムラーノ』が日本に戻ってくることを、皆様にお伝えできて大変うれしく思います。『ムラーノ』は卓越したデザインや高い快適性により米国市場でお客さまから高い評価を受けています」
導入されるのは4代目にあたるZ53型だ。米国では2024年12月から生産が始まり、2025年モデルとして販売されている。J.D.パワーの「2026年米国自動車耐久品質調査(VDS)」では、ミッドサイズSUVセグメントで2年連続「最も信頼性の高いモデル」に選出された実績を持つ。
VC-ターボ——可変圧縮比エンジンという選択
Z53型ムラーノの心臓部は、2.0L直列4気筒VC-ターボエンジン(KR20DDET型)だ。最高出力は約244PS(241hp)、最大トルクは352Nm。組み合わされるトランスミッションは9速ATで、歴代ムラーノで初めてCVTを廃した世代でもある。
VC-ターボの「VC」はVariable Compression、つまり可変圧縮比の略だ。エンジン内部のマルチリンク機構がピストンの上死点位置を連続的に変化させ、圧縮比を8:1から14:1まで無段階に制御する。高負荷時には低い圧縮比でノッキングを抑えつつ大出力を確保し、巡航時には高い圧縮比で熱効率を高める。V6並みのパワーを直列4気筒で実現する技術だ。
結果として、駆動方式がFFでもAWDでもEPA(米国環境保護庁)複合燃費は同じ23mpg、リッターあたり約9.8kmを達成している。同クラスのV6エンジン搭載SUVが7〜8km/L前後であることを考えると、約244PSの出力に対して燃費効率は高い。パワーと燃費の両立を、ハイブリッドではなく内燃機関の進化で追求した点が興味深い。
デザインと装備——ムラーノガラスの名を冠するインテリア
エクステリアは「Crystal Cube」と名付けられた超薄型LEDヘッドライトが目を引く。日産のアイデンティティであるV-motionグリルを大型SUV向けに再解釈し、リアにはフルワイドのLEDライトバーが車幅いっぱいに横断する。

インテリアでは、車名の由来であるイタリア・ヴェネツィアのガラス工芸で知られるムラーノ島にちなんだ「ムラーノガラス」加飾が施されている。12.3インチのデジタルメーターと12.3インチのインフォテインメントディスプレイがダッシュボードに並び、NASAの中性姿勢研究に着想を得た「Zero Gravity シート」は前席・後席の両方に採用された。

安全装備はNissan Safety Shield 360を全グレードに標準装備する。歩行者検知付き自動緊急ブレーキ、ブラインドスポット警告、高速道路での運転を支援するProPILOT Assistが含まれる。上位グレードのSL以上では、Google MapsやGoogle Assistantに対応したGoogleのコネクテッドシステムや、3Dサラウンドビューカメラも装備される。
約12年ぶりの日本復帰——ムラーノと日本市場の歴史
ムラーノが日本で販売されるのは、実に約12年ぶりのことだ。
初代Z50型は2002年に北米で先行デビューし、2004年9月に日本市場へ投入された。イタリアのガラスの島から名前をもらったこのSUVは、2004年度グッドデザイン賞を受賞するなど、デザイン面で高い評価を受けた。2代目Z51型も2008年から日本で販売が続いたが、2015年3月に販売を終了している。
2014年に発表された3代目Z52型は日本に導入されなかった。車体サイズが日本の道路事情には大きすぎたこと、エクストレイルがSUVの主力に位置づけられたことが主な理由だ。
今回の4代目Z53型の日本復帰を可能にしたのは、クルマそのものの魅力だけではない。制度の変化がある。
米国製乗用車の認定制度——何が変わったのか
2026年2月16日、国土交通省は「米国製乗用車の認定制度」を施行した。道路運送車両の保安基準を改正し、米国で製造され米国基準(FMVSS等)に適合する乗用車について、国土交通大臣の認定を受ければ日本の保安基準に適合するものとみなす制度だ。
従来であれば、米国生産車を日本で販売するには日本独自の安全試験をクリアする必要があった。新制度では書類審査のみで認定が完了し、追加の安全試験は不要となる。安全性の担保は、自動車技術総合機構が市場に出回った車両を抜き取りで検査する仕組みで行われる。
認定を受けた車両には、車体後面に直径約5cmの赤と白の星形ステッカーの貼付が義務づけられ、自動車検査証にも「認定米国車」と記載される。
この制度は、2025年7月の日米枠組み合意に基づくものだ。日産のムラーノだけでなく、トヨタは米国製カムリ、ハイランダー、タンドラの日本導入を発表しており、ホンダもアキュラ インテグラ Type Sやパスポートの日本販売を予定している。米国で生産された日本車が日本に戻ってくるという、新しい流れが始まっている。
考察——日本市場でのポジションはどこか
日本仕様の価格やグレード構成は、2026年3月時点で未発表だ。参考として、米国市場ではSVグレードが40,470ドル(約607万円)から、最上位のPlatinumが49,600ドル(約744万円)に設定されている。
ボディサイズを日本のミッドサイズSUVと比較すると、ムラーノの存在感は際立つ。
| モデル | 全長 (mm) | 全幅 (mm) | パワートレイン |
|---|---|---|---|
| 日産 ムラーノ(Z53) | 4,900 | 1,981 | 2.0L VCターボ |
| トヨタ ハリアー | 4,740 | 1,855 | 2.0L NA / 2.5L HV |
| マツダ CX-60 | 4,740 | 1,890 | 2.5L / 3.3L直6D |
| スバル フォレスター | 4,655 | 1,830 | 1.8Lターボ / 2.5L HV |
| 日産 エクストレイル | 4,660 | 1,840 | 1.5L VCターボ e-POWER |
全長4,900mm、全幅1,981mmという数値は、ハリアーやCX-60より一回り大きい。日本の機械式駐車場には収まらないサイズだ。一方で、この「アメリカンサイズ」こそがムラーノの個性でもある。国内のSUVにはない余裕のある室内空間と、通常時932L・後席格納時1,798Lの荷室容量は、大きなクルマを求める層に響くだろう。
社内ではエクストレイルがCセグメントSUVとして存在するため、ムラーノはその上位にあたるDセグメントSUVとして棲み分ける形だ。エクストレイルがシリーズハイブリッドのe-POWERを採用するのに対し、ムラーノは純ガソリンのVC-ターボで差別化を図る。
スペック・価格まとめ
主要スペック(米国仕様)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| モデルコード | Z53 |
| エンジン | 2.0L 直4 VC-ターボ(KR20DDET) |
| 最高出力 | 約244PS(241hp)/ 5,600rpm |
| 最大トルク | 352Nm / 4,400rpm |
| トランスミッション | 9速AT |
| 駆動方式 | FF / インテリジェントAWD |
| 全長×全幅×全高 | 4,900×1,981×1,725mm |
| ホイールベース | 2,824mm |
| 車両重量 | 1,961〜2,013kg |
| 荷室容量 | 932L(後席格納時 1,798L) |
| 生産拠点 | 米国テネシー州スマーナ工場 |
| 日本発売時期 | 2027年初頭(予定) |
米国価格(参考)
| グレード | 駆動 | MSRP | 概算日本円 |
|---|---|---|---|
| SV | FF | $40,470 | 約607万円 |
| SV | AWD | $41,470 | 約622万円 |
| SL | AWD | $46,560 | 約698万円 |
| Platinum | AWD | $49,600 | 約744万円 |
※ 1ドル=150円で概算。日本仕様の価格・グレード構成は未発表。
ムラーノという車名は、イタリア・ヴェネツィアのムラーノ島に由来する。700年以上の歴史を持つガラス工芸の島だ。4代目のインテリアにはこのムラーノガラスをモチーフにした加飾パーツが施されており、車名と内装デザインが初めて直接つながった世代でもある。ちなみにスマーナ工場でのムラーノ累計生産台数は70万台を超えている。テネシー州の工場で生まれたSUVが、ヴェネツィアの島の名を纏って日本に渡ってくる——なかなかロマンのある話だ。


